02
外食事業部編
得体のしれない恐怖に飲み込まれる
その日から、得体のしれない新型ウィルスが世界中にまん延し、
私たちが今まで積み上げてきたものを容赦なく壊していった。
それは、あっという間に、そして何もかも———–。
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#01
最初の試練
「ダメだ、立ち行かない」居酒屋業態を4店舗やっていた私たちには、それがなぜだかわからなかった。
世界中で「非常事態宣言」が次々に発令され、人が集まることを禁止され、会話を制限された。そしてみなうつむいて生活する。夜の外出、皆でお酒を楽しむという事も禁止された。
夜の街は閑古鳥が鳴き、お客様は来ない。
行ってはいけないと悪者扱いされた。そして、世界中でまん延したそのウィルスは外食業界に暗い影を落としていった。
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#02
次の試練。
業態をあきらめる『すいません、辞めます』
また今日も。これで12人目だ。でも、彼らを責めることはできない。
アルバイトの半分以上は辞め、それでもお客様は来ない。『・・・業態をあきらめよう』
主力であった居酒屋業態からの完全撤退。それは社員の夢をあきらめるものでもあった。
居酒屋が好きで、この店を繁盛店にして、笑顔があふれる店にしたい。そしていつかは自分の店を持ちたい。そんなことをいつも話し合っていた社員たちには、この一言は何より心を引き裂かれた。なぜ?
私たちの力が足りなかったのか?
なぜこのウィルスはみんな奪っていくの?そんなことを自問自答しながら、私たちは自分たちの力のなさにうつむき、涙した。
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#03
「光明」あきらめるな。
何度でもチャレンジできる『あきらめるな!』
絶望のどん底にいた彼らを鼓舞し、その陣頭指揮をとったのは小原だった。
残ってくれたスタッフを見渡すと、アルバイトから社員登用したスタッフと、新卒2年目のスタッフ、そして、社歴の長いアルバイトの方、他数名のみ。
『私たちは何度でもチャレンジできる』
そして、こんな時にでもお越しいただいているお客様に少しでも笑顔を届けないといけない、そう思って新たな業態を模索し、そしてあきらめず継続した。 -
#04
恩返し。
「さあスタートライン!」『ありがとう。私たちは皆さまに支えられています。』
小原はスタッフに、必ず声に出してそう言うようにお願いした。
―発注量が減っても取引を継続してくださったお取引先様。
―いろいろな相談に乗ってくださった大家様や周辺のお店の方々。
―退職せずに残ってくれたスタッフ。
―新しく希望をもって入社してくれたスタッフ。何よりも、うちをご愛顧いただいたお客様おひとりおひとり。
外食事業部はアステーブルとして分社化し、再スタートを切りました。
居酒屋事業からは完全撤退しましたが、昼食もできる笑顔が集まる牛たん専門店として。
おかげさまで出だしは好調です。しかし、私たちは今回の試練を絶対に忘れず、感謝の気持ちをもって、更なる飛躍を目指します。少数精鋭で動き、そして更なる拡大を目指す。そんなスタートラインに立てたと、小原は空を見上げた。